2022.10.03
大学との共同研究で神経ペプチド受容体VIPR2が乳癌細胞遊走を制御するメカニズムを解明
一丸ファルコス株式会社(本社:岐阜県本巣市、代表取締役社長:安藤芳彦)は、広島大学及び大阪大学と共同で、乳癌転移を抑制するための新規治療標的となる可能性のあるメカニズムを解明し、2022年9月27日発行の学術誌「Frontiers in Oncology」にて論文発表しました。
【研究の概要】
広島大学大学院医系科学研究科細胞分子薬理学 浅野 智志 助教 、吾郷 由希夫 教授 、大阪大学大学院薬学研究科 橋本 均 教授、一丸ファルコス株式会社 坂元 孝太郎 主席研究員らの研究グループは 、乳癌細胞遊走、転移に関わる新規分子として、神経ペプチド受容体VIPR2を見いだしました。
乳癌は、世界的にみても女性で最も罹患数の多い癌です。 非浸潤癌が進行して浸潤癌になると活発化し、 癌細胞遊走(移動能や浸潤能が亢進し、血管やリンパ管に入り込み、リンパ節や肺などに転移します。転移能が亢進すると致死率が高くなります。細胞が移動する時、仮足と呼ばれる細胞の足のような構造体が形成されます。細胞は、人で言うところの「足を踏み出す 」ように仮足を伸ばし、その先端は「足の裏」のように地面を掴み、その後 残された「体を引き寄せる 」ようにして一歩進みます。この仮足の形成にはホスファチジルイノシトールとよばれるリン脂質の代謝が不可欠で 、この代謝に関わる酵素の過剰な活性化は、癌細胞の遊走や転移を亢進させる可能性があります。
神経ペプチド受容体 VIPR2 は、乳癌を含むいくつかの癌で高発現していることが報告されています。本研究では、VIPR2 が神経ペプチド VIP の刺激を受け取ると、仮足形成に関わるリン脂質の代謝酵素が活性化し、仮足の形成、伸長が引き起こされることを明らかにしました。一方、VIPR2 機能の阻害は、癌細胞遊走能を低下させました。
今回の結果は、VIPR2 が乳癌細胞遊走を制御する重要な分子であることを示していると同時に、VIPR2 機能を抑制する化合物が新規の癌転移抑制薬の候補となる可能性を示唆
しています。
【発表論文】
○ 論文タイトル
Vasoactive intestinal peptide-VIPR2 signaling regulates tumor cell migration
○ 著者
浅野 智志1,2、山坂 美紗2、小笹かいり2、坂元 孝太郎3、早田 敦子4、中澤 敬信4、橋本 均4、Waschek James 5、吾郷 由希夫1,2
1. 広島大学大学院医系科学研究科細胞分子薬理学
2. 広島大学歯学部
3. 一丸ファルコス株式会社
4. 大阪大学大学院薬学研究科神経薬理学
5. カリフォルニア大学ロサンゼルス校精神医学・生物行動科学部門
○ 掲載雑誌
Frontiers in Oncology (DOI 番号 10.3389/fonc.2022.852358)
詳しくは、「Frontiers in Oncology」をご覧ください。
【関連リンク】 Frontiers in Oncology